同門の声 Voice
在宅医療の現場から
~後輩たちへのメッセージ~
肥後 太基(1993年卒)
- 医療法人社団ゆみの
- ゆみのハートクリニック渋谷
- わかばハートクリニック
私は循環器医として、そしてここ15年あまりは主に重症心不全医として大学病院や急性期病院で勤務してきたものですが、2023年より循環器領域に強みを有する在宅診療クリニックを東京、大阪、福岡で展開する医療法人で勤務しています。当初は東京2ヵ所、福岡1ヵ所の3拠点で診療を行っていましたが、現在は平日は東京の渋谷のクリニックで院長として、週末は福岡市中央区のクリニックで外来と訪問診療を行い、日々患者さんのご自宅を回って診療を続けています。
在宅診療というと、ご高齢の方や時として認知症の方、あるいは癌の末期の看取りのために在宅で過ごす方などの診療をイメージされる方も多いと思います。もちろんそのような患者さんも多いのですが、私や同僚たちは、循環器疾患を抱えつつ通院が困難な患者さんや、在宅の環境では病状が容易に悪化しやすい患者さんたちを対象に、急性期医療機関に負けない、いやそれ以上の質の医療を提供することを目標に診療を行っています。補助人工心臓装着患者さんや強心薬の持続点滴を行いながら自宅で過ごす重症の患者さんたちも少なからず担当しています。
私が長らく携わってきた心不全の診療とは、患者の人生観を知り、自らの持つ知識や技能を生かしつつ、患者やその家族とともに彼らが望む人生の過ごし方をサポートし、最期までその人らしく過ごしていただくことだろうと思います。内科的治療も内科が担当する侵襲的治療や外科的治療も、すべては一つの治療手段であって治療のゴールではありません。我々が目指すべきは、患者や家族を理解し、彼らと相談し、時にはアドバイスし、共感しながら、なおかつ地域の医療介護従事者らと協力して彼らの望む人生を過ごしてもらうことだと考えています。そのためには患者や家族に対して興味を持ち、彼らを人として尊重し、人間として愛すること、自らが信頼してもらえるだけの十分な知識と技能、そして人間性、コミュニケーション能力を有することが求められるように思います。在宅という場では、患者さんやご家族の“素”の姿を見ることができ、彼らの文字通りのホームで彼らの日々の生活、人生と接しながら、彼らの人生を支えていくことができます。一方で、すぐ検査に頼ることができる病院と比べて、患者の訴えや手足の温かさ、息遣い、そして身体所見などを頼りに病状の変化に対応していく難しさもあり、しっかりとした臨床能力がないと良質な医療は提供できないように思います。
私は医師として30年余りを過ごす中で、常に自分の置かれた環境の中で何ができるか、何をしておくことが重要かを考え診療に邁進してきたつもりです。その中で常により幅広い総合的な視野と、しかしより深い専門的な見地を養うよう努力してきました。だからこそ、医師としての現役生活を40年と仮定して、残り10年を迎えた昨年、満を持して自らが目指してきた医師になるべく在宅医療の現場に身を置くことを決心しました。なぜなら、医療の本質は在宅にこそあると考えているからです。これまで培ってきた知識、技能、コミュニケーション能力、そして人間力を武器に、しかしながら在宅医療の分野では初心者として、新たな知識や技能を身に着けていくことができる喜びを感じながら日々の診療を行っています。
後輩の皆さんにお伝えしたいこと、それは、どういう分野に進むにせよ、
- 幅広い分野に造詣を深め、
- 自らの専門を深く追求し、
- 自らの技能におぼれることなく、
- 患者や家族の人生に立ち会っていく
のだという意識を持ち続けていただきたいということです。そのためにはたゆまぬ努力、かつ謙虚さ、患者や家族はもちろん同僚や地域の人達とのコミュニケーションをぜひとも大事にしていっていただきたいと思います。
私は、患者さんとそのご家族の「人生」というドラマのよき演出家でありたいと思っています。見終わったあとに、「あぁ、いい人生だったなぁ」と患者さんやご家族、そして我々医療者も満足できる、そういうドラマをたくさん作っていきたいと思っています。そのためにも最期まで自らの患者さんとは付き合っていきたいと思っていますし、その覚悟を持って診療にあたっています。きっとこれからもそのスタンスを大事にしていきたいと思っています。この文章を読んで、在宅医療、あるいは患者の人生に寄り添う医療に興味をもってくださった方がいらっしゃれば、ぜひ私のクリニックまで遊びにお越しください。同じ志を持つ後輩が一人でも増えてくれることを期待しています。
最先端の治療を強固なチーム力で
安全かつ迅速に提供する
末松 延裕(1996年卒)
- 済生会福岡総合病院
- 循環器内科 主任部長
- 九州大学医学部臨床教授
当院は屋上にヘリポートを持つ三次救急医療機関であり、1918年に福岡市中央区天神に開設されて以来「施薬救療によって生活困窮者を救済する」という「済生の心」を理念に、日々多くの救急患者を受け入れています。
循環器内科は1999年7月に6名のスタッフで内科から独立して開設されました。2011年4月の心臓血管外科新設を経て、2013年3月に血管外科を加えた「心臓血管・大動脈センター」が開設され、多様な循環器疾患に対するチーム医療体制が確立されました。診療科の垣根を超えた強い結束力により、最善の治療をチーム全員で安全かつ迅速に提供すべく努力しています。
2012年に開始したカテーテルアブレーションは、累計4000例を数えます。心房細動に対する最新のPFA(pulsed field ablation)も他施設に先駆けて導入いたしました。
2019年に開始したTAVIは200例を数え、2023年9月には専門施設に認定され透析症例へ実施可能となりました。ハイブリッド手術室も2室新設し、2020年からはWatchman、2024年からはMitraclipも可能となりました。
冠動脈疾患は、2019年5月に国内4番目に導入したFFRctにより非侵襲的なPCIの適応評価が可能です。その累計症例数は全国6位を数えます。2023年は25例の院外心肺停止を含む175例の急性心筋梗塞を受け入れました。看護師・臨床工学技師が常駐しており、IABP、ECMO、Impellaが24時間直ちに使用可能です。
リードレスペースメーカー、S-ICDなどの各種デバイス留置に加え、感染・不全デバイスの抜去は福岡県外からも積極的に受け入れています。
末梢動脈疾患は、必要によりEVTと外科手技のhybridで血行再建を行っています。石灰化病変を切削するJetstreamは福岡市内で現在唯一使用可能な施設です。
多職種による心不全サポートチームは、毎週のカンファレンスで個々の症例の方針を決定し、退院後の地域の先生方との連携につなげています。
本年は当科設立後四半世紀の記念すべき年です。重症の肺高血圧や補助人工心臓が必要な超重症心不全については九州大学病院のサポートを頂きつつ、久保田副院長以下15名のスタッフで最先端の治療提供に努めています。このページをご覧の方々が少しでも当施設に興味を持っていただける機会となれば幸甚です。
臨床への情熱と
飽くなき探究心の継続
向井 靖(1996年卒)
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福岡赤十字病院 循環器内科 部長・
救急センター 副センタ—長 - 九州大学医学部 臨床教授
- 日本不整脈心電学会 理事
医学部を卒業して九州大学循環器内科の門を叩いたのがつい先日のようですが、入局して29年目になります。現在は福岡赤十字病院において13名の循環器チームの統括と不整脈に対するカテーテルアブレーションを専門としています。医学部卒業時(当時は初期研修医になる時点で入局でした)に循環器内科学に興味を持ったきっかけは、心血管系(循環器系)は生体臓器の中でも最もダイナミックで、生理機能に着目して診断と治療を行うのがとても面白そうだったからです。学生時代に教科書を読んでいても、心周期の理解などに興味が持てましたし、高度な医療機器や画像診断に頼らずとも、心電図や身体所見(特に聴診!)など、自らの視覚や五感をフルに駆使して現場で診断や病状評価ができる点が躍動感抜群で魅力に感じました。聴診器は今も大好きで、その診断能力に自信も持っています。必ずしも最新高度なことではなく、循環器医師の臨床医としての単純な立ち振る舞い方に魅力を感じたのです。卒業時、学力はないが体力と気力はあった私を当時医局長の先輩(江頭健輔先生)が背中を押してくださり、九州大学循環器内科に入局させていただきました。当時は故・竹下 彰教授が教室を主催されていましたが、内科医(あえて循環器医とは書きません)、研究者としていずれの角度からもまさに巨人であり、竹下先生のおっしゃる意味を一字一句必死で考えることから医師としてのキャリアをスタートさせました。以後20年近い九大病院・医学研究院での勤務と海外留学等を通じて、循環器内科学全般の修練、心臓カテーテル技術の研鑽、心臓移植の対象となるような重症心不全の管理、心エコー部門、さらには細胞レベルの基礎研究まで、多岐にわたる貴重な経験をさせていただきました。現在は循環器領域の中でも最も好きで若い時から憧れていた臨床不整脈学を専門とし、専門医を育成する立場にもなりました。遠回りもたくさんしましたが、幅広い経験が、臨床医としての総合力と論理的思考に生きていますし、今現在ももっと視野の広い優れた臨床医になりたい、あるいは未解決の課題は検証・研究をして発信して行こう、というモチベーションにもつながっているように思います。“急がば回れ”という諺がありますが、本当にその通りで、臨床医で魅力的な方々は結構そんな生き方をしているようにも思うのです。現在は若手中堅の後輩達とともに自分たちの治療データをまとめ、内外の一流の学会(日本循環器学会、American Heart Association, AHAやEuropean Society of Cardiology, ESCなど)で研究成果を発表することが本当に楽しいですね。循環器内科医の役割はとても幅が広く、心筋梗塞や心不全といった急性期・救急診療において”目の前の患者を救う”という臨床医としての大きなやりがいはもちろん、高度に専門的な診断・カテーテル治療法の実践・開発、病気のメカニズムに迫る基礎的研究とその臨床応用など、医師・研究者として力量を発揮できる舞台が無限にあります。そして九州大学循環器内科には臨床医としての確かな知識・技術および倫理観を身につけるとともに、論理的思考と開発能力を身につけたPhysician Scientistを育成する伝統と環境が整っています。もう一つ重要なのは、医師として真に尊敬できる先輩方が作ってきた伝統により、真に患者さんのためになる診療を提供しようとする伝統精神が当科には強く根付いていることをあげたいと思います。循環器内科医および研究者を目指す若手には是非、九州大学循環器内科で学び、優れた臨床医として活躍するとともに、リサーチマインドを持って研究成果を世界に発信し、大きく羽ばたいて欲しいと思っています。