診療 Treatment
肺高血圧・静脈血栓
肺高血圧症
肺高血圧症は、心臓から肺に血液を送る肺動脈の血圧が異常に高くなる病気です。これにより、心臓に負担がかかり、息切れ、疲労感、足のむくみ、失神などの症状が現れることがあり、無治療では命にもかかわることのある重篤な疾患です。
肺高血圧の病態はいくつかのタイプに分類されます。最も多いのは左心不全に伴って二次的に起こる肺高血圧で、この場合は左心不全に対する治療が中心となります。それ以外の場合、主に下記の3つに大別してそれぞれに適した治療を行っていきます。
肺動脈性肺高血圧症
肺動脈性肺高血圧症は肺動脈に過剰な収縮と細胞増殖が起こることで、血管の内腔が狭くなり、血液が流れにくくなることで肺高血圧となる状態です。その原因は様々で、BMPR2などの遺伝子が関与している場合もあり、血縁者での発症もみられることがあります。当グループでは遺伝子検査も積極的に実施しています。このほか、結合組織病やHIV、短絡性心疾患などによっておこる2次性に対しては原因疾患の治療を行いながら、肺高血圧症の診断治療を行います。
治療薬として、肺血管拡張薬(エンドセリン拮抗薬、PDE5阻害薬、可溶性GC刺激薬、プロスタサイクリン誘導体)に加え、2025年より新たに使用可能になった血管細胞の増殖を抑制する薬(アクチビンシグナル阻害薬)も含めた様々な治療薬から、それぞれの患者さんの状態に合わせた治療を行っています。
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)
下肢深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症で発生した新鮮血栓は適切な治療により50%で完全溶解しますが、完全溶解が得られないまま時間がたつと、器質化血栓として残ってしまいます。肺血栓が器質化すると、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)に進展することがあります。
これに対する治療は、器質化した血栓を手術によって除去する外科的血栓内膜摘除術(PEA)のほか、より低侵襲なカテーテルでの肺動脈バルーン拡張術(BPA)を行います。また、一部の内服薬も有効性が示されており、これらの治療を組み合わせることで、肺動脈圧を正常に近い状態まで改善させることができる場合もあります。
呼吸器疾患に伴う肺高血圧
呼吸器疾患に伴う肺高血圧症は患者数が多いにも関わらず、治療法がない疾患でした。2021年にトレプロスチニル吸入薬が間質性肺疾患の運動耐容能を改善する薬剤としてその有効性・安全性が確認され、2024年10月に本邦でもこの薬剤が承認されています。当グループでは呼吸器内科と連携して、間質性肺疾患に伴う肺高血圧に対する診断、治療を積極的に行っています。
肺動脈性肺高血圧症に対する新規機序薬剤:ソタテルセプト(アクチビンシグナル阻害薬)
肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、肺の血管が狭く硬くなることで息切れや疲れやすさが生じ、心臓に負担がかかる病気です。ソタテルセプト(エアウィン®)は、PAHの原因の一つである肺血管リモデリングに関わる「アクチビンシグナル」を抑え、血管を構成する細胞の異常な増殖を抑制することを目指す新しい治療薬です。
九州大学病院では、2023年に始まったソタテルセプトの国内導入治験から本薬剤に携わり、PAH患者さんへの使用経験を積み重ねてきました。現在も、患者さん一人ひとりの病状、これまでの治療、検査結果、副作用リスクを総合的に確認しながら、専門チームで治療方針を検討しています。ソタテルセプトが適しているかどうかは個々に異なりますので、受診時に主治医へご相談ください。
下肢血栓後症候群に対する下肢静脈インターベンション(静脈ステント)を導入しました
血栓後症候群は、深部静脈血栓症のあとに足の静脈の流れが悪くなり、足のむくみ、だるさ、痛み、皮膚の色調変化、難治性の潰瘍などを起こすことがある病気です。特に骨盤内の太い静脈である腸骨静脈に狭窄や閉塞がある場合、症状が長引く原因となることがあります。
九州大学病院は、血栓後症候群や腸骨静脈狭窄に対して、VENOVO™静脈ステントシステムを使用できる施設基準を満たしています。VENOVOステントは、狭くなった静脈を内側から支え、下肢から心臓へ戻る血流の改善を目指す治療選択肢です。
九州大学病院では、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)に対するカテーテル治療に加え、下肢血栓後症候群に対するカテーテル治療にも積極的に取り組んでいます。治療の適応は、症状、画像検査、これまでの治療経過を総合的に判断します。足のむくみや痛みが長く続く方は、主治医へご相談ください。