研究グループ

心不全

心不全研究グループでは、基礎研究から橋渡し研究、臨床研究まで幅広く精力的に取り組んでいます。

基礎研究では、「心不全の発症・進展のメカニズムを解明」し、「画期的な新規心不全治療の開発」を目指して、遺伝子改変動物や培養細胞を用いた基礎研究を精力的に行っています。また、橋渡し研究として、「ナチュラルキラーT細胞活性化による慢性炎症制御に基づく新たな心筋症治療の実用化」に関する研究を推進しています。

当院は九州における唯一の心臓移植実施施設であり、多くの重症心不全患者の管理を行っています。当院における左室補助人工心臓(LVAD)に関する臨床研究により重症心不全患者の治療に関する新たなエビデンスの確立を目指しています。さらに、わが国における心不全診療の適正化に資するための全国規模のデータベースによるエビデンスの創出を目指した1万例規模の心不全患者の登録研究をはじめ、National Databaseを用いた多くの臨床研究を進めています。

松島 将士

主な研究プロジェクト

心筋リモデリングにおける酸化ストレス制御に関する研究

 心不全の病態基盤である心筋リモデリングには酸化ストレスが重要な役割を果たしており、我々は酸化ストレスを制御するメカニズムの解明を目指して基礎研究を行っています。特に、酸化ストレスの産生源としてミトコンドリアおよびNADPH oxidaseに着目し、心不全モデルマウスを用いて解析を行っています。また、薬剤性心筋症における脂質ラジカルの役割に関する研究も進めています。

  1. Tadokoro T, Ikeda M, Ide T, Deguchi H, Ikeda S, Okabe K, Ishikita A, Matsushima S, Koumura T, Yamada K, Imai H, Tsutsui H. Mitochondria-dependent ferroptosis plays a pivotal role in doxorubicin cardiotoxicity. JCI Insight (in press).
  2. Okabe K, Matsushima S, Ikeda S, Ikeda M, Ishikita A, Tadokoro T, Enzan N, Yamamoto T, Sada M, Deguchi H, Shinohara K, Ide T, Tsutsui H. DPP-4 Inhibitor Attenuates Angiotensin II-Induced Cardiac Hypertrophy via GLP-1-Dependent Suppression of Nox4-HDAC4 Pathway. 75(4):991-1001. 2020
  3. Matsushima S, Kuroda J, Zhai P, Liu T, Ikeda S, Nagarajan N, Oka S, Yokota T, Kinugawa S, Hsu C, Li H, Tsutsui H, Sadoshima J. Tyrosine kinase FYN negatively regulates NOX4 in cardiac remodeling. J Clin Invest 126(9):3403-16. 2016
  4. Ikeda M, Ide T, Fujino T, Arai S, Saku K, Kakino T, Tyynismaa H, Yamasaki T, Yamada K, Kang D, Suomalainen A. Overexpression of TFAM or twinkle increases mtDNA copy number and facilitates cardioprotection associated with limited mitochondrial oxidative stress. PLoS One 10(3):e0119687. 2015

心筋リモデリング・不全心筋におけるエネルギー代謝制御に関する研究

不全心筋においては糖代謝、脂肪酸代謝の異常が生じており、心筋リモデリングの進展に深く関与しています。エネルギー代謝異常のメカニムズの解明およびエネルギー代謝異常に起因する細胞内シグナル伝達機構の解明は心不全の新たな治療につながる可能性があります。我々はエネルギー代謝改善による心不全治療の確立を目指して、糖代謝に関与する蛋白や蛋白糖化修飾に関する基礎研究を進めています。

心筋リモデリングにおけるオルガネラ機能制御に関する研究

心筋細胞の機能はミトコンドリアや小胞体をはじめとしたオルガネラ機能により支えられており、心不全に陥った心筋細胞ではオルガネラ機能異常を認めます。特に、ミトコンドリア機能異常はエネルギー代謝異常、酸化ストレス、小胞体機能異常は小胞体ストレスと関連していますが、これらのオルガネラ機能制御のメカニムズは十分に解明されていません。我々は、ミトコンドリア機能、小胞体機能の制御機序の解明を目指した基礎研究にも精力的に行っています。

 

心筋症におけるカルシウム代謝異常に関する研究

心不全においてカルシウム代謝異常が重要な役割を果たしていることは知られていますが、近年、アドリアマイシン心筋障害においてもカルシウム代謝異常が注目されています。我々は、カルシウム代謝への介入によるアドリアマイシン心筋症の改善に関する研究を行っています。また、近年、拡張型心筋症、肥大型心筋症ではカルシウム感受性異常が病態基盤であることが明らかとなってきましたが、トロポニンT遺伝子変異による拡張型心筋症モデルを用いて、心筋症におけるカルシウム感受性に関する基礎研究を進めています。心不全においては骨格筋にも異常を来たし、活動性低下や予後と関連しており、我々は骨格筋細胞の形態やCa代謝を制御する新規蛋白質に関する研究も行っています。

  1. Ikeda S, Matsushima S, Okabe K, Ikeda M, Ishikita A, Tadokoro T, Enzan N, Yamamoto T, Sada M, Deguchi H, Morimoto S, Ide T, Tsutsui H. Blockade of L-type Ca2+ channel attenuates doxorubicin-induced cardiomyopathy via suppression of CaMKII-NF-κB pathway. Sci Rep. 9:1-14. 2019
  2. Arai S, Ikeda M, Ide T, Matsuo Y, Fujino T, Hirano K, Sunagawa K, Tsutsui H. Functional loss of DHRS7C induces intracellular Ca2+ overload and myotube enlargement in C2C12 cells via calpain activation. Am J Physiol Cell Physiol. 312(1):C29-C39. 2017

心筋線維化に関する制御メカニズムの解明

急性冠症候群の生存率は早期の再灌流療法により大きく改善しましたが、亜急性期の心破裂は致死的であり大きな研究課題です。我々は、梗塞後心破裂にミトコンドリア生合成の異常が関与することを明らかにしました。さらに、心破裂を制御する分子メカニズムに関する研究を進めています。また、心筋線維芽細胞における間質線維化の制御メカニムズの解明を目指しています。

  1. Inoue T, Ikeda M, Ide T, Fujino T, Matsuo Y, Arai S, Saku K, Sunagawa K. Twinkle overexpression prevents cardiac rupture after myocardial infarction by alleviating impaired mitochondrial biogenesis. Am J Physiol Cell Physiol. 311(3):H509-19. 2016

ナチュラルキラーT細胞活性化による慢性炎症制御に基づく新たな心筋症治療の実用化

我々は梗塞後心不全がナチュラルキラーT細胞活性化により改善することを世界で初めて報告しました。拡張型心筋症マウスモデルにおいてもナチュラルキラーT細胞活性化の有効性は認められています。現在、細胞治療(樹状細胞を担体としたαGalcel刺激)によるナチュラルキラーT細胞活性化による心筋症治療に関する橋渡し研究を推進しています。 

  1. Homma T, Kinugawa S, Takahashi M, Sobirin MA, Saito A, Fukushima A, Suga T, Takada S, Kadoguchi T, Masaki Y, Furihata T, Taniguchi M, Nakayama T, Ishimori N, Iwabuchi K, Tsutsui H. Activation of invariant natural killer T cells by α-galactosylceramide ameliorates myocardial ischemia/reperfusion injury in mice. J Mol Cell Cardiol. 62:179-88. 2013
  2. Sobirin MA, Kinugawa S, Takahashi M, Fukushima A, Homma T, Ono T, Hirabayashi K, Suga T, Azalia P, Takada S, Taniguchi M, Nakayama T, Ishimori N, Iwabuchi K, Tsutsui H. Activation of natural killer T cells ameliorates postinfarct cardiac remodeling and failure in mice. Circ Res. 111(8):1037-47. 2012

虚血再灌流傷害の病態生理解明と新たな治療法の開発

早期血行再建(経皮的冠動脈インターベンション)を主とする再灌流療法の普及により心筋梗塞の急性期死亡は著明に改善した一方で、再灌流自体に伴う再灌流傷害、およびそれに伴う遠隔期の心機能障害と慢性心不全は心不全パンデミックと表される社会問題となっています。我々は、再灌流傷害のさらなる病態解明と新たな治療法の開発に取り組んでいます。

  1. Deguchi H, Ikeda M, Ide T, Tadokoro T, Ikeda S, Okabe K, Ishikita A, Saku K, Matsushima S, Tsutsui H. Roxadustat markedly reduces myocardial ischemia reperfusion injury in mice. Circ J (in press).

非植込型LVAD実施施設からの適切な重症心不全患者紹介基準の確立

2011年4月より、心臓移植待機患者に限り植込型左室補助人工心臓(LVAD)の保険適応が認められました。植込型LVADの適応となる患者は、あらゆる内科的治療に抵抗性となったいわゆる「ステージD」心不全患者ですが、近年の研究からは、心不全に伴い全身状態が悪化する前にLVAD装着を行うことで装着後の経過が良好となることが報告されており、早期のLVAD装着が推奨されています。しかし実臨床において、非植込型VAD実施施設からVAD実施施設への患者紹介の適切なタイミングを知ることは困難で、紹介が遅れて植込型LVAD装着の適応とならない、もしくは装着しても予後が悪い症例がしばしば経験されます。

当グループでは、非植込型VAD実施施設から当院に紹介となった症例の紹介タイミングとその後の経過について解析を行い、適切な紹介基準を確立し、提唱することを試みています。

植込型LVAD装着術後早期の脳血管障害発症を予測する術前因子の解析

植込型LVADは重症心不全患者の予後を劇的に改善する有効な治療でありますが、その合併症は決して看過できるものではなく、特に脳血管障害はLVAD装着後1年間で約40%の患者に発生し、しばしば患者のQOLを大きく障害し、重症例では致命的な経過を辿ることもあります。そのため、LVAD装着後に脳血管障害を発症するリスクの高い患者を術前に把握する患者選択は極めて重要な課題です。

当グループでは、当院で植込型LVAD装着術を施行した患者の術前因子から、術後早期の脳血管障害発症を予測する因子の解析を行っています。これにより、合併症予防の観点から適切なLVAD装着患者選択基準を提唱することを目指しています。

心不全National Databaseを用いた臨床研究

人口の高齢化や生活習慣病の増加に伴い心不全患者は増加の一途をたどっており、「心不全パンデミック」として、その対策は緊満の課題となっています。そのためには、わが国の心不全の全国的な実態を反映するデータベースを構築して、心不全治療の適切性を評価することで最適な治療を見出すことが重要です。我々は「わが国における心不全診療の適正化に資するための全国規模のデータベースによるエビデンスの創出」を目指して1万例規模の心不全患者の登録研究を推進しています。また、心不全患者の重症化の予測モデル開発のための前向き研究、拡張相肥大型心筋症に長期経過および予後因子を解明するための全国レジストリ研究、厚生労働省の「臨床個人調査票」を用いた心筋症の実態解明に関する研究などを行っています。

  1. Kaku H, Funakoshi K, Ide T, Fujino T, Matsushima S, Ohtani K, Higo T, Nakai M, Sumita Y, Nishimura K, Miyamoto Y, Anzai T, Tsutsui H. The Impact of Hospital Practice Factors on Mortality in Patients Hospitalized for Heart Failure in Japan: An Analysis of a Large Number of Health Records from a Nationwide Claims-Based Database, the JROAD-DPC. Circ J. in press
  2. Enzan N, Matsushima S, Ide T, Kaku H, Higo T, Tsuchihashi-Makaya M, Tsutsui H. Spironolactone Use is Associated with Improved Outcomes in Heart Failure with Mid-Range Ejection Fraction. ESC Heart Fail. 7(1):339-347. 2020
  3. Matsushima S, Kaku H, Enzan N, Ide T, Higo T, Tsuchihashi-Makaya M, Tsutsui H. Electrocardiographic Left Ventricular Hypertrophy is Independently Associated with Better Long-Term Outcomes in Dilated Cardiomyopathy Patients. Circ Rep. 1:248-254. 2019
  4. Nakada Y, Kawakami R, Matsushima S, Ide T, Kanaoka K, Ueda T, Ishihara S, Nishida T, Onoue K, Soeda T, Okayama S, Watanabe M, Okura H, Tsuchihashi-Makaya M, Tsutsui H, Saito Y. Predicting Survival in Acute Decompensated Heart Failure with the Simple Risk Score: A2B Score. Circ J. 83(5):1019-1024. 2019