診療グループ

睡眠呼吸障害〔ASV, CPAP〕

  • 循環器疾患には高率に睡眠呼吸障害(Sleep Disordered Breathing, SDB)が合併します。
  • SDBの治療は循環器疾患の病態の改善に貢献します。
  • 循環器内科では、循環器疾患に合併した睡眠時呼吸障害に関して、九州大学病院睡眠時無呼吸センターと連携して診療を行っています。

西坂麻里

睡眠時呼吸障害について

図1 各心血管疾患における睡眠呼吸障害合併率
(文献 2より引用)

睡眠呼吸障害(Sleep Disordered Breathing, SDB)とは、睡眠中に一過性の呼吸異常または障害が断続的に出現する病態です。近年、高血圧から虚血性心疾患、不整脈、肺高血圧症、心不全まで、様々な循環器疾患に高率にSDBが合併すること、ひいてはその発症と進展に大きく関与する可能性が広く認識されるようになりました(図1)。

睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome, SAS)の病名の方が広く浸透していますが、日中の過剰な眠気やいびきのような典型的な症状を伴わない場合にも、呼吸不安定とそれに伴う低酸素血症は心・肺・血管に悪影響を与えることが証明され、その適切な診断と管理が、すなわち適切な集学的循環器診療の一部であることから、睡眠呼吸障害・SDBという診断名を用います。

2008年米国での「AHA/ ACCによる睡眠時無呼吸と心血管病変に関するガイドライン」1発表に次いで、わが国でも2年遅れて日本循環器学会から「循環器領域におけるSDBの診断・治療に関するガイドライン」 2が提唱されましたが、その診断と治療介入の浸透は循環器専門施設においても施設間で大きな乖離があり、概して不十分な現状であると言っても過言ではない現状です。

SDBに対しては、主に閉塞性障害においては持続陽圧呼吸(Continuous Positive Airway Pressure, CPAP)療法が、中枢性障害には在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy : HOT)が治療の主体でしたがこれらに加えて、2007年から主に心不全に合併したSDBを対象として非侵襲的人工呼吸器であるサーボ制御圧感知型人工呼吸器(Adaptive Servo Ventilation, ASV) が治療の選択肢として加わり、心不全の非薬物治療の一端を担っています。しかしながら、その適応と導入・中止時期のタイミング、至適圧の設定などは、いまだ充分確率されているとは言い難い現状で、かつ、適応となる重症心不全患者さんで安全かつ安定した効果を維持するのは容易ではありません。

従来、SDBは耳鼻科や呼吸器科、精神科や心療内科などを中心にその診療がなされてきました。近年、上述のように循環器疾患との強い関連が示されるようになり、循環器疾患を有する患者さんにも適切な治療がなされるべく、循環器内科医師の役割と責任は大きいと考えています。ことにこの2-3年、国内外から重症心不全を有する患者さんに対するASVの功罪に関する報告がなされ3-5、ASV, CPAP, HOTなどの保険診療と治療適性評価を大きく変化させる結果となっています。

容易でない重症心不全患者さんの日常診療を、安心して連携地域医療施設に分担頂くためにも、適切な診断の上での初期導入と定期的な経過追跡・調整は必須と考えます。

九州大学病院睡眠時無呼吸センター(安藤眞一教授)では、専門資格を有する技師が終夜モニター監視下で終夜睡眠ポリソムノグラフィ検査を施行しており(Attended Full PSG)、重症の心不全や呼吸不全を合併する患者さんの診断や治療の至適化/Titrationも可能です。

SASの典型的な症状がなくとも、心不全には様々な睡眠障害(表)が高率に合併し睡眠の質の低下は循環器疾患治療の妨げとなります。逆に、その治療介入は患者さんのQOLのみならず生命予後の改善にもつながります。

表 睡眠呼吸障害(SDB)国際分類第2版(ICSD-2) 診断分類(文献2より引用)

文献

  1. Somers VK. J Am Coll Cardiol. 2008; 52(8):686-717.
  2. 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドラインGuidelines for Diagnosis and Treatment of Sleep Disordered Breathing inCardiovascular Disease (JCS 2010). Circ J. 2010; 74(suppl II):1053-1084.
  3. Cowie MR. N Engl J Med. 2015 Sep 17;373(12):1095-105.
  4. SAVIOR-C investigators. Circ J. 2015;79(5):981-90.
  5. Momomura S. Heart Vessels. 2015 Nov;30(6):805-17.

ASV治療が奏功した虚血性心筋症の症例

70歳台男性

慢性心房細動、左室機能不全 (左室駆出率分画(LVEF) 23%)、心係数(Cardiac Index: C.I.) 2.5 L/min/m2と低心拍出の症例。利尿薬調整過程中に急性肺水腫を生じ緊急搬送となった。強心薬補助の下、BiPAP換気、利尿薬、血管拡張薬など、CCUにおける急性期治療で全身状態の改善を得、一般病棟へ転棟となった。残存虚血のないことを確認され、十分な内服治療再導入後にも周期性無呼吸に伴う低酸素血症が確認されていた。簡易PSG検査を行ったところRDI 38.7/hr、3% ODI 38.2、著明なCSR-CSAを認めた。Split night studyにてASV Titrationを行った結果を図2に示す。ASV装着後はCSRおよび無呼吸低呼吸の消失と共に、有意な心拍数の減少が確認された。

慎重に血圧・心拍数をモニターしつつ陽圧治療を行い、呼気終末陽圧(Positive End-Expiratory Pressure: PEEP) 5 cmH2O, 圧補助(Pressure Support: PS)  3 cmH2Oで血圧低下などを認めない至適設定であることを確認し、在宅治療へ円滑に移行することができた。退院後は安定した経過で肺水腫の再燃なく、日常生活が可能となっている。

図2 Split night studyによるASV Titrationの結果

ASV装着前のPolysomnography(PSG)結果:
無呼吸低呼吸指数(AHI ) 61.2 events/hr、中枢性無呼吸指数(CAI) 13.8/hr、最低動脈血酸素飽和度(SpO2)値 86%、平均心拍数92 bpm
→ASV導入後(至適設定: PEEP 5 cmH2O, PS 0-3 cmH2O) :
AHI 7.7/hr、CAI 0/hr、最低SpO2値 97%、平均心拍数66 bpm

ASV装着後はCSRおよび無呼吸低呼吸の消失と共に、有意な心拍数の減少が確認された。